中期経営計画がスタートして1年。
さらなる企業価値の向上に向けて
現在の中期経営計画(以下、中計)がスタートした1年目の議論を振り返ってみると、ホールディングスとして全体感の議論というよりは、傘下の各銀行におけるバンキングビジネスを中心にホールディングスとしてまとめた数字に関する議論が多かったという印象があります。
りそな固有の歴史として、公的資金完済に向けて様々な改革に注力し、立て直しをしたという実績がありますが、それはもちろん成功事例として理解しています。しかし、社外取締役同士や南社長も交えた議論を重ねているなかで、これからの10年を見据えた時に、従来型のバンキングビジネスそのものや、金融業界全体が抱える問題として、将来性にはやはり危機感があるということが改めて明らかになりました。
基礎的な部分として、各銀行のバンキングビジネスは大事ですが、今ある姿の延長線をただ改善していくだけでは大きな展望は描けないという危機感を抱いていますので、この危機感は今後の取締役会における議論の論点としていきたいと考えています。また、取締役会のあり方は、取りも直さず、ホールディングスそのもののあり方を少しずつでも変えていかないといけないという問題意識を議長として持っていますので、今日はこの辺を中心に意見交換をさせていただきたいです。
「りそなとしての企業価値をどう高めていくか」ということが私たちの使命です。取締役会としての使命を果たすにあたってどう考えていくか、長期ビジョンやパーパスを策定して中計をスタートさせた形ですが、私としても議論を重ねてきたなかでまだ議論を深掘りしていくことが課題として残っているということが認識できたと思っています。
私自身の反省ですが、議長に就任した際、執行側に余計な手間をかけて足を引っ張ってはいけないと変に気を遣ってしまっていた部分がありました。執行サイドにおける議論の資料がそのまま取締役会に上がってきてしまうと、どうしても日々のバンキングビジネスが中心となりがちで、なかなか全体感としての戦略にまで議論が至らなかったと思います。今後は、中計の残り2年間にとどまらず、その先を見据えた議論をしていくために、執行側に負担をかけることになるかもしれませんが、一歩踏み込んだ議論ができるようお願いをしていきたいと考えています。
どこの会社の取締役会でも資料に関する悩みは全く同じだと思います。執行サイドの会議との違いとして、取締役会として特に大事なのは「長期的な目線」です。5年、10年先を見据えながら議論を常に蓄積しておくことが必要だと思います。また、もう一つ大事なのは「視野の広さ」です。ホールディングスの役割はパーパスで掲げる「金融+」をいかに実現していくかにありますので、当社にとって伝統的ではない領域や金融の枠組みを超えた先に強みを活かせるビジネスチャンスがあるのかといった議論は、ホールディングスの取締役会でしかできないと思っています。
銀行が非銀行部門まで事業を拡大していく際にホールディングスの役割は、グループ全体の力を集約的に発揮して、企業価値を拡大させていくことにあります。そのためには、パーパスで言う「金融+」のプラスの部分になりますが、今後の事業のあり方をしっかりと見定める必要があると思います。加えて、事業を展開していくためのグループ全体にわたる経営資源の配分というものをどうしていくのかもしっかりと議論していく必要があります。
皆さんと同じように、私としてもホールディングスは長期戦略の解像度をもっとはっきりさせていかなければならないと考えています。これまでも活発な議論はありましたが、方向性は出たけれども、具体的なゴールのイメージやゴールに至る道筋を明確に持つまでに至っていないと思います。取締役会としては、ゴールというものを改めてより明確にして、そこに至る道筋を確認することをしていかなければいけないと思っています。また、環境は常に変化していますので、毎年確認していく必要があると思います。取締役会としては、これらの確認を通じてそのための方法論を議論するということに取り組んでいくことで企業価値を高めていけるのではないかと考えています。
ホールディングスの取締役会の役割とは
この1年の間で、ホールディングスの取締役会の役割はどうあるべきかということを、様々な場面で発言する方が増えてきたと感じています。南社長も交えて取締役会以外の場で議論することもありましたが、きっかけは池取締役が議長に就任以降、こうした課題認識をぶつけてこられたというのが非常に大きいと思っています。また、今年の4月には、関西みらいフィナンシャルグループを合併して、4つの銀行が傘下に並列に並ぶという形になりましたが、これを機にグループのガバナンスがどうあるべきか、ホールディングスの役割はどういうことかの議論をしてきたということだと思います。ただし、議論がまだ完全ではなく、これからも続けていく必要があると思っています。
また、山内取締役の言う通り、自分たちのありたい姿というものがまだ完全に描ききれていないと思っています。ありたい姿についての議論は、執行サイドも含めて、まさにホールディングスでしっかり議論していきたいと思いますし、私たちの大きな仕事の一つだと私も思っています。
りそな固有の歴史的な背景は十分理解してきました。パーパスや長期ビジョンを掲げて様々な挑戦に挑んでいますが、社外の立場からすると、公的資金を完済するまである種の我慢を強いられてきたということが、今も心のどこかに染みついてしまっていると感じられる部分があって、その染みついたところを少しずつ取り除いていくことが私たちの使命だと思います。もはや従前の延長では世の中の変化に追いつける状況ではありません。構造的に何かを大きく変える一歩を踏み出す必要があります。ただし、今日明日で何かが急に変わるわけではないので、一つひとつ地道に積み重ねていくしかないと思っています。
戦略のなかで様々な施策や挑戦をどう位置づけるかに関する議論のウエイトをもっと増やしていくべきではないでしょうか。多様な知見を有する社外取締役同士が常に議論できるようになれれば、さらなる成長につなげていけるのではないかと考えています。
どういった事業ポートフォリオを組むかをベースにして企業価値をいかに高めていくかは、適切にリスクテイクしていくということでもあると思います。りそな固有の要因として、公的資金注入を機にまずはリスクを適切に管理していくことに力点を置かざるを得ませんでしたが、今後は事業環境が大きく変化していくなかで企業価値を向上させていくためには適切なリスクテイクが非常に重要になっていくと思います。これまでも経営資源配賦の最適化を図るためにリスクアペタイト・フレームワークなどの体制整備の必要性について意見を述べてきましたが、変化へ対応していくためにこれを体系化するなど執行サイドでも高度化に向けて取り組みを始めており、期待感を持っています。今後の議論ではこのフレームワークをしっかり活用していくことが必要だと思いますが、こうした動きにつながったのも議長の問題意識を踏まえたこれまでの議論の一つの成果だと思っています。
私としても多少の手応えを感じています。リスクテイクのあり方については、日々業務のなかで考えとして根づいていたものを、執行側としても改めて体系化を行い、全体戦略策定の枠組みとして一連の動きを一本化させるとの明言がありました。取締役会での議論や社外取締役からの意見を受けて、多少なりとも執行側が動いてくれているという実感があります。
取締役会のガバナンスは守りと攻めのバランスが重要ですが、これまで守りのガバナンスに重点を置いてきた取締役会から、攻めのガバナンスがどういうことかを考え始めたところではないでしょうか。攻めのガバナンスについては、私自身も経験が乏しく、自分の力量を高めていかないといけないと思っています。良い方向に議論が動きつつあるのは確かですが、リスクを取らないことのリスクにまで踏み込んでおらず、まだ議論しなければならない点があるなと感じています。
取締役会に限らず、各委員会の役割とは
監査委員会としてもリスクに対する向き合い方の意識はもっと変えていく必要があると思っています。リスク管理的な部分は絶対に必要ですが、報告する側の内容は管理的な部分が中心になっています。もう少しリスクテイクという領域についても、岩田取締役が言われた通りリスクを取らないリスクに対して意識が変わるよう少し幅を広げて議論していけたらと考えています。リスク管理の守りの部分については、コンプライアンスにしっかり取り組むということだけではなく、りそなブランドとしてどうあるべきかの視点で議論ができれば、結果的に意識を変えていけるような形で委員会運営ができるのではないかと考えています。
監査委員会は守りに重きを置きがちになりますが、銀行含めた各子会社社長とのエンゲージメントをしていただいていることもあるので、前向きな攻めの部分も含めて啓発していただけると、結果として取締役会にも議論が上がってきますので、ぜひともお願いしたいと思います。
加えて、個人的には、この2年間の議論を通じて様々な変化があったと思っています。岩田取締役には改めて、ホールディングスは全体のガバナンスを効かす立場という観点を踏まえて、体制のあり方について指名委員会のなかで議論を期待したいと思います。
ありがとうございます。ぜひ、来年度の役員体制の議論に入る前にそういった議論をしていきたいと思います。
指名委員を務めていた際に、役員のアセスメントに参加しましたが、社外取締役が若手の役員を含め、エンティティの垣根を越えて多くの役員と接することができ、素晴らしい取り組みだと思っています。アセスメントのなかでは、社外取締役の立場から引き続き厳しい意見具申を行っていただき、危機感を醸成して大きなビジョンが持てるようにしていただきたいと思います。
今までの議論を伺っていて、全社的に新たな事業領域に取り組んでいくなかで、グループ連結運営の認識をどう保っていくかという点が共通する部分ではないかと思います。こうした認識をもとに、報酬委員会としては昨年改定したグループ各社の役員報酬制度には一貫してグループ連結目線の評価を導入しました。
パーパスの実現に向けて、どのような議論が必要か
世の中がこれだけ変化をして、プレーヤーも変わりつつあるなかで、当社がこれまでと全く関係のない銀行外の領域にいきなり飛び込んでいくというのは現実的ではないと思います。社外取締役としては引き続き議論を重ねながら、どの領域や分野に活路を見い出すのかを探っていかなければなりません。要となる日々のバンキングビジネスの部分を守りながら、あるいは守るだけではなく改めないといけないところが山積みにされているので、そこに取り組みながらも新たな活路をいかに見い出していくかということが、取締役会としての議論の中心になるかと思っています。
日本では中小企業が圧倒的多数を占めるなかで、私たちがその中小企業に対してソリューションを提供していくということは、私企業としての側面だけでなく、ある種公的な役割の側面もあると思っています。当社のビジネスモデルを推進して、十分に力を発揮すれば、結果として企業価値を増大するのみならず、りそなとして金融機関の役割を十全に果たしていることになるのだと思います。今後、このモデルの一層の推進に向けて議論を重ねていきたいと思います。
「金融+」は3階層で構成されていると考えています。1階層目は、圧倒的に大きい部分ですが、既存のビジネスをいかに深掘りして、さらに価値を生み出すことができるかということだと思います。次に、2階層目は金融の領域ではあるが、当社がこれまで参入していない、あるいは参入しているかもしれないが、本当に微々たるものというところに、どこにチャンスがあるかということ。最後の3階層目は、非金融の領域でどこに行けるかというのは誰も答えを持っている人はいないと思います。マインドの変革をして本当にスケールアップできるようなビジネスが生まれるかになりますが、なかなか難しい取り組みだと感じています。
「金融+」については、私たちのイメージも様々ですが、当初とくらべて、だいぶ認識が合ってきた面がありますので、企業価値の向上に向けて、引き続き議論を重ねていきたいと考えています。これからもホールディングスの取締役会の実効性を上げるためにも、委員長の皆さんにはご協力をお願いします。