りそなグループ統合報告書2024

野崎教授×CSO対談

東洋大学 国際学部教授 野崎 浩成氏と取締役兼執行役副社長兼グループCSO 石田 茂樹の写真

東洋大学
国際学部教授
野崎 浩成

1986年、埼玉銀行入社。2000年以降、外資系証券会社・金融機関の調査部に在籍した後、2015年、京都文教大学総合社会学部教授。2018年、東洋大学国際学部教授(現)

取締役兼執行役副社長
兼グループCSO
石田 茂樹

りそなグループは、「環境激変」に
どのように対応していくべきか

「金利のある世界」へ。
様々な環境変化をどのように企業価値向上に結びつけていくか

野崎

金融政策を含むマクロ環境に加え、社会的価値観や人々の行動様式までもが激しく変化していますが、りそなの良いところはこうした変化への対応力だと感じています。

こうしたなかで、CSOとして最も注目すべき変化は何でしょうか。そして、それらに伴う機会とリスクをどのように認識していますか。

石田

金融政策はもとより、インフレ、人手不足、生成AIをはじめとするテクノロジーの進化、SX・DXや貯蓄から投資への潮流等々、様々な環境変化が起きており、時代の大きな転換点に立っているという認識がベースにあります。こうした変化に伴って生じるお客さまや地域社会のこまりごとに寄り添い、解決することを通じて、企業価値向上につなげていくというのが基本的な考え方です。

そのうえで、目前に迫っているという意味では、「金利のある世界」に的確に対応していくことも重要と考えています。金利上昇にも機会とリスクの両面があり、貸出金や債券の利回り改善が機会となる一方、リスクとしては、信用リスクの増加や保有債券の評価損拡大などがあります。また、各金融機関のプライシング戦略の柔軟性が増すことによって生じる競争環境の変化の可能性にも留意する必要があります。

全体としては、リスクよりも機会の方がはるかに大きいと考えています。コスト上昇の影響を受けるお客さまの事業改善・再生への取り組み強化を含め、適切にリスクコントロールしつつ、金利上昇という機会を確実に捉えるべく準備を進めています。

野崎

資本市場の一番の注目点は、りそなの金利感応度の高さです。一方で、金利上昇によって収益が増加してくると、安心感のようなものが漂ってしまわないか、という懸念は生じませんか。

石田

マイナス金利環境が長く続くなかで、これまでグループとしてフィービジネスの拡大に注力し、大きな成果につなげてきました。「金利のある世界」では、アセットの収益性改善が見込まれますが、これに甘んじることなく、アセットビジネスとフィービジネスを成長の両輪として、トップラインを伸ばしていきます。

インフレ局面では、いわゆる「貯蓄から投資へ」の潮流のなかで、預金から投資商品へのシフトが加速する可能性も高く、そうした機会もしっかりと捉えて、ビジネスを拡大していきたいと考えています。

お客さまの価値観・行動が変わるなかで、どのようなソリューションを提供していくのか

野崎

「金利のある世界」というと、日本で1%かそれ以上のある程度実感できる金利があったのは30年近く前のことであり、現在とは状況が大きく違います。粘着性の高い預金基盤が、りそなグループの特長の一つですが、アカウント数を伸ばしているインターネット専業銀行(以下、ネット銀行)に、預金が流れる懸念はありませんか。

石田

過去と競争環境が一変しているという点は、ご指摘の通りで、特に個人分野におけるネット銀行の台頭は、大きな脅威と捉えています。一方、当グループには、ネット銀行と差別化できる要素があります。

まず、りそなグループアプリです。機能改善を絶えず続けており、ネット銀行以上の利便性を目指しています。

次に、800を超える有人店舗の存在です。デジタルの世界が進めば進むほど、ここでの強みが活きてくると思っています。今後も、デジタルを磨き上げ、リアルと融合させることで、ネット銀行との差別化に取り組んでいきます。

また、今後、資産運用ニーズがますます高まっていく環境下では、年金運用で培ったノウハウを活用してお客さまに価値を提供していきたいと考えています。

野崎

個人の価値観の変化や行動変容によって家計の動きが変わってきているように、法人金融も、資金余剰になって久しいですが、どのような変化を見込んでいますか。

石田

インフレが予見されるなか、人手不足や、SX、DXへの対応といった観点からも、法人の資金需要は高まっていくと想定しています。実際、昨年度は法人向けの貸出金が大きく伸長しました。お客さまの資金ニーズにこれからもしっかりと応えていきます。

法人のお客さまの預金をお預りしていくという観点では、決済サービスがポイントの一つになると考えています。近年、B2Cの決済サービスが大きく進化しましたが、B2Bでは旧来の仕組みがそのまま残っており、進歩させていく余地があります。

昨年度、デジタルガレージ社との資本業務提携を強化しましたが、外部の知見も活かしながらB2B決済の領域で、新たなソリューションを提供していきたいと考えています。

旺盛な資金需要の捕捉と決済サービスが、法人ビジネスの成長エンジンを担っていくと考えています。

野崎

非常に興味深いですね。B2Bの決済システムの延長線上には、サプライチェーンファイナンスのような付加価値の高い金融サービスが考えられます。ぜひ取り組みを強化してほしいと思います。

また、そのほかでも、事業承継や事業再生、スタートアップ支援においてデットとエクイティの双方からサポートできる点、信託機能を活用したソリューションが提供できる点などを、今までになかった付加価値のあるソリューションに結びつけていくことで、新たな機会を創造できるのではないかと期待しています。

資本をどのように活用していくか

野崎

これまでの議論とも関連してバランスシートマネジメントについてもお聞きしたいと思います。過去10年、20年の低金利環境下では、流動性預金のみが増える状況が続きました。これらを待機性資金と捉えると、今後は減少していく可能性があります。今後、資産効率を高めるために、あえてバランスシートを縮小させていくということも想定されていますか。

石田

バランスシート縮小という方向性ではなく、能動的なバランスシートマネジメントを通じて、資産効率性の改善を図っていく考えです。具体的には、バランスシートの左側、資産サイドにおいて、よりリスクリターン・コストリターンが見込める資産への入れ替えを進めることで収益性を改善し、資産効率を上げていきたいと考えています。

野崎

資本を今後いかに株主の利益に沿った形で活用していくか、についてはいかがですか。

石田

りそなグループは、公的資金返済の過程で3兆円以上の資本を投じましたので、2015年6月の公的資金完済後は、良質な資本の蓄積に取り組んできました。

その結果、前中計最終年度末である2023年3月末に、CET1比率で「10%程度」を達成することができ、現中計では、今後生み出される資本を積極的に活用できるフェーズに入ったと考えています。

その資本をどのように活用するかについて、現中計では、株主還元の水準を一段引き上げるとともに、成長投資を拡充していく考えです。具体的には、貸出金をはじめとするオーガニック領域と、M&Aを含むインオーガニック領域の双方で活用していきます。加えて、インナー投資として人的資本投資を3年間累計で新たに330億円、システム投資も3年間累計で前中計から約1.5倍となる1,200億円を計画しています。

また、政策保有株式の削減計画も見直しました。今後6年間で簿価ベースで3分の2以上を削減する計画ですが、ここで創出される資本も、こうした持続的成長に資する領域にしっかりと投下し、企業価値の向上につなげていきたいと考えています。

野崎

政策保有株式をゼロにするお考えはありますか。

石田

この計画をやり切った2030年に残る政策保有株式の残高は、2003年3月末のわずか5%強という水準になる見込であり、大きな覚悟を持って策定した計画となります。まずは、本計画を着実に実行し、実績をお示ししていくことが重要と考えています。

野崎

日本企業も、自社株買いを含めて株主還元が非常に充実してきましたが、個人的には、縮小均衡よりも前向きな資本の活用を志向すべきだと考えています。資本の活かし方については、例えばROICや投資ホライズンなどを開示し、投資家が納得するような水準感を共有することが必要です。

石田

利益をどこまで還元し、あるいは次の成長に振り向けるか、このバランスが重要と考えています。投資に振り向ける比率を高めていくためには、それに見合った成長シナリオを示すことができるかが、一番大きなポイントです。還元に対する市場の皆さまのニーズが高いということも認識していますので、時々の環境を踏まえながら検討していく考えです。

野崎

金融機関に限らず、企業にとって株式市場は、資金を調達する場であって、資金を吸収する場ではないはずです。したがって、投資家が自社株買いを志向するのは、その企業の成長に疑念があるからだと考えざるを得ません。投資の果実をきちんと示したうえで、成長ストーリーを掲げながら、りそなが考える資本の有効活用を語るのであれば、投資家の評価が得られるのではないでしょうか。

石田

そのような評価をしていただけるように、ストーリーをお示ししていきたいと思いますし、そのためにはやはり実績を示していくことが大事だと考えています。

さらなる成長に向けて、パーパスの実効性をどのように高めていくか

野崎

さらなる成長を志向していくには、2023年に策定したパーパスの実効性をいかに高めていくかが極めて重要です。

りそなグループは他のグループに先駆け、銀行業から金融業へと経営ビジョンを大きく転換してきました。さらに、「金融+」という金融の枠組みにとどまらないビジョンを掲げ、お客さまや社会にとってプラスにつながる様々な価値をお届けする姿勢を示したことは、非常にすばらしいと感じています。

これを実現するには、お客さまや社会の「こまりごと」がキーワードであり、組織全体、そして社員一人ひとりが「こまりごと」を機会へと昇華させる発想力を身につけ、高めていくことが必要です。パーパスを組織全体に同じレベルで浸透させるのは非常に難しいと思われますが、どのような取り組みを進めていますか。

石田

パーパスの実現には、役職員一人ひとりがパーパスや長期ビジョンである「リテールNo. 1」を、自分ごと化して考えられるかが、まず重要です。

その取り組みの一つとして、「3万人のマイパーパス」というプロジェクトを立ち上げました。一人ひとりが周囲とディスカッションして、自分にとっての「金融+」とは何か、自分にとっての「未来をプラス」とは何かを考えてマイパーパスを作成します。このような取り組みを通じて、自分の価値観と共鳴させることが浸透につながると考えています。

また、経営からのメッセージ配信、テレビCMなども活用しています。今回、国内男子プロバスケットボールリーグ(Bリーグ)のタイトルパートナーへ就任しましたが、これもパーパスを浸透させていくための象徴的な取り組みの一つです。

もう一つ必要と思っていることは、社内のあらゆる取り組み、あるいはルールの目的が、パーパス、長期ビジョンの実現にあることを明確にしていくということです。例えば、「リスクアペタイト・フレームワーク」(以下、RAF)についても、「リスクアペタイト・ステートメント」の中で、パーパス、経営理念の実現を目的とする枠組みとして位置づけました。お客さま本位の業務運営への取り組みなど、あらゆる枠組みについて、パーパスや長期ビジョンに紐づけ、グループ全体に一つひとつ丁寧に示していくことが重要だと考えています。

野崎

RAFに関しては、基本的にはリスク管理の視点が高いかと思いますが、業務運営を正面から捉え、パーパスと結びつけながらRAFのそれぞれの要素を考えていくことは極めて重要ですね。お客さま本位の原則も、ルールベースに陥ると、何のための原則か忘れられてしまうと思います。さらに言えば、業績評価をいかにパーパスと関連づけられるかといったこともポイントであると考えます。

石田

評価については、定量評価のウェイトを下げてプロセス重視に切り替えてきています。運用面では改善すべき点が多々あり、まだ手探りの状態ですが、“成すべきことをいかに成すか”をもっと前面に打ち出して、それが評価される仕組みに変えていきたいと考えています。

RAFについても、単なるリスク管理の枠組みとして狭く捉えるのではなく、パーパス・長期ビジョンの実現に向けて、ヒト・モノを含めて、どのように経営資源を配賦するかという枠組みとして考えていきたいと思っています。

野崎

RAFの源泉であるレベニューを収益だけでなく、人的資本や顧客満足度を加えて再定義するということは、おそらく、これまで他の金融機関がやったことがない展開だと思いますので、非常に楽しみです。

りそなの人財戦略、人的資本改革の方向性は

野崎

人的資本の改革というテーマで、伺いたいと思います。インセンティブ設計は、金融機関にとって非常に重要なデザイン上の留意事項です。リスキリングとアップスキリングという2つのスキリングが重要で、もう一つ、広い意味での人財の流動化をいかに高めていくかがポイントになります。人財の流動化では、グループ外も含め、様々なグループ会社と人事交流を促進するのが良いと考えています。

また、インセンティブ設計で注目しているのが、株式報酬です。株主と従業員という2つのステークホルダーのベクトルを一致させるには、従業員持株会ではないカタチで株主になることが意味を持ちます。このような視点で株式報酬の裾野を広げるお考えはありますか。

石田

リスキリングにしてもアップスキリングにしても、自分の知らない世界に触れることは、非常にプラスになります。

当グループの人財戦略では「越境」を非常に重視していて、グループ外にもどんどん飛び出すように促しています。専門性が求められる仕事が増えるに従って、同じ部署に所属する年数が長くなっている現状を見ると、他の部署、そしてエンティティ間でも交流する重要性が増しています。ありとあらゆる越境を経験していくことが、多様性も含め、人財ポートフォリオの強さを形づくっていくと捉えています。

金融機関は人で成り立っているビジネスであり、一人ひとりの成長がない限り、会社の成長もありません。具体的な目標として、2030年度までに新任経営職階層のキャリア採用・越境経験者割合を100%にすることを掲げています。

株式報酬については、有力な選択肢の一つだと考えています。現状は、役員のみですが、引き続き、研究していかなければならないと考えています。

野崎

ジェネラリストをつくるためのジョブローテーションではなく、新しい知見に触れるための越境は非常に良い取り組みです。

細谷元会長の「銀行の常識は世間の非常識」という指摘をもう少し広げて、「金融グループの常識は世間の非常識」という観点で、外の目を入れていくことは良いことだと思います。

また、Uターン組を積極的に採用する、すなわち出ていく人が成長の機会を外に求めるのであれば、それを止めるのではなく、むしろ外を経験したうえで「やっぱりりそなっていいよな」という形で戻りたくなるような組織にするというのも重要だと思います。

石田

いわゆる、アルムナイ採用についても、力をいれています。一度外に出て戻ってこられる人は、今までもいました。外に出られた人のネットワークを作ることで、「やっぱりりそながいいな」と思う人が戻ってくるハードルを下げられるように取り組んでいます。

対談を終えて

野崎

りそなグループには、“細谷イズム”が定着しており、これまで銀行の常識が次々と覆される光景を目にしてきました。りそなを見てきて、“銀行は変わらない業種”という思い込みがなくなり、“変われるんだ”という意識を持つことができました。

過去の構造改革で生み出された、例えば店舗のレイアウトなども、今や、他の銀行の模範となっています。銀行業だけでなく、金融グループとしてロールモデルを果たすべく、「金融+」の発想でイノベーションや新たな価値を創出し続け、業界全体を牽引していってほしいと思っています。心から応援しています。

石田

様々なステークホルダーの皆さまが、今、教授がおっしゃってくださったようなことを、りそなグループに期待されているのではないかと思っており、そうした声に応え続けていくことが大事だと考えています。

皆さまに支えられているりそなにとって、これまで培ってきた「変革のDNA」を発揮し、これからも変わり続けられるグループであるということを示していきたい、大きな環境変化の中でこそ変わるりそなを見ていただきたい、と思っています。ありがとうございました。

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