りそなグループ統合報告書2025

機関投資家・社外取締役座談会

機関投資家・社外取締役の集合写真(写真上段左から監査委員会委員長・指名委員会委員 山内 雅喜、指名委員会委員長 岩田 喜美枝、報酬委員会委員長 野原 佐和子、下段左から取締役会議長 池 史彦、マラソン・アセット・マネジメント東京事務所 髙野 雅永)
監査委員会委員長
指名委員会委員
山内 雅喜 (写真上段左)
指名委員会委員長
岩田 喜美枝 (写真上段中央)
報酬委員会委員長
野原 佐和子 (写真上段右)
取締役会議長
池 史彦 (写真下段左)
マラソン・アセット・マネジメント東京事務所
髙野 雅永 (写真下段右)
Profile
髙野 雅永
英国・ロンドンの資産運用会社、マラソン・アセット・マネジメント(以下、マラソン)の東京事務所 日本調査代表。主に日本企業のリサーチ・エンゲージメントを担う。マラソンは「資本サイクル仮説」を投資哲学の中心として、長期的な投資戦略をグローバルに展開。資本サイクル分析によって投資機会を見出し、高いパフォーマンスを収めている。

パーパスの実現と次期中期経営計画

髙野

りそなグループは「金融+で、未来をプラスに。」をパーパスに掲げています。金融+アルファという意味で捉えると、金融以外のバックグラウンドをお持ちの社外取締役の皆さまが経営に参画していることへの期待は大きいものがあります。パーパス実現のために社外取締役としてどのような視点や考え方を重視していますか。

日本企業には昔から「三方よし」の言葉に表れているように、ステークホルダーを意識した経営が根づいていました。昨今、パーパス経営やステークホルダー・エンゲージメントの重要性が声高に求められていますが、以前から社是として「パーパス」を経営理念として掲げる企業は多く存在していました。流行りだからということで「パーパス」を形式的に取り入れるのではなく、パーパスを本質的に捉え、その実現に向けて具体的な課題解決の道筋を取締役会にて議論していくことが肝要だと感じています。

岩田

当初、このパーパスを議論した取締役会や社外取締役ミーティングの場で、「金融+」や「未来をプラスに」が必ずしも明確にはなっていないということを申し上げてきました。様々な議論を重ねるうちに理解したのは、「金融+」は、三層構造であるということです。第一層は、銀行業務を中心とした既存領域です。第二層は、銀行以外の金融ビジネスや金融周辺領域を指しています。そして第三層は、銀行業務から見た「飛び地」であり、非金融領域というわけです。りそなは以前、「脱・銀行」を掲げていたこともあって、社外取締役の私は、「金融+」はこの第三層のことだけを言っていると思っていたわけですが、執行側は三層構造を念頭に置いて話をしているとわかって、徐々に歯車が噛み合いはじめました。「金融+」とは言い換えれば、目指すべき事業ポートフォリオを指していると考えています。取締役会において、事業ポートフォリオに関する議論はまだ深掘りの余地があり、今後の課題だと感じています。また、「未来をプラスに」とは、「金融+」を通して「どのような社会をつくりたいか」を考えることであると理解しています。来期から新たな中期経営計画がスタートするというタイミングで、マテリアリティの見直しを進めています。この議論が「未来をプラスに」とは、何を意味するのかを明確にしていくものだと実感しています。

取締役会運営としては、パーパス実現のために、年間を通じて長期的な視点での議論がなされるべきだと考えています。りそなの中期経営計画は3年ごとに策定し、パーパスや具体的な戦略について策定時には深く議論をしますが、中期経営計画策定後は、定量的な実績の報告に加えて、「中長期的に何を目指しているのか」という文脈での報告を求めていく重要性を感じています。具体的な戦略に関する議論や、社外取締役が特に課題と感じている事柄に対し、パーパスや長期ビジョンで掲げた「目指す姿」に紐づいた報告を求め、その実現性のモニタリングを強化していきたいと思います。今年度は次期中期経営計画策定に向けた議論が中心となりますが、3年前に中期経営計画を策定した時と、現在の経済環境が大きく異なっている点にも留意が必要です。日本の金融機関は長らくデフレのなかにあり、「金利ゼロの世界で、どのようにしてトップラインを伸ばすのか」を議論してきました。現在の中期経営計画も金利のない前提でスタートしていましたから、「金利のある世界」になって経営環境が様変わりし、当初の目標を1年前倒しで達成することとなりました。大切なことは当初議論した課題が、前提条件の変化に頼ることなく解決できているかという検証を行うことだと感じています。

野原

中長期的な戦略のモニタリング方法については、さらに改善していく必要があると感じています。毎月の取締役会では、月次の数字が出て、様々な案件ごとに議題の資料が用意されますが、大きな視点で「金融+」がどのように進捗しているか、見えづらい部分があります。次期中期経営計画の検討においても、「新たな事業ポートフォリオをどうしていきたいか」といった、皆が共有できる絵をざっくりと描き、それをしっかりとモニタリングしなければなりません。これに対しては、社外取締役がイニシアチブをとっていくことが重要だと考えています。

髙野

金融機関を取り巻く環境では、金利は戻ってきたものの、世の中がどんどん便利になり、手数料など様々なものが限りなくゼロに近づいています。「どのように経済的価値を上げ、安定した収益を伸ばしていくか」に対するりそなグループの答えが、「金融+」と言えます。これまで以上に「金融+」で掲げたりそなのビジネス領域を広げていかないと、りそなの存在価値がなくなる、成長できない、ステークホルダーにも十分報いることができないという状況に陥りかねません。一方で、そこにたどりつくプロセスがなかなか見えにくく、何をモニタリングすればよいか試行錯誤されているということですね。

山内

パーパスを策定したことで、向かうべき方向性はより明確になりました。取締役会がやるべきことは、「我々が登る山をどの山にするか」といった、具体的な選択と集中を行うことです。取締役会は、金融にずっと軸足を置いてきた執行側と、金融以外のバックグラウンドを持つ社外取締役が意見をぶつけることで、より良い選択ができる場になります。山頂を目指すルートを決め、そのための準備にどれだけお金が必要なのか、認識合わせをしているところです。年間を通じて議論がステップアップしていくように、今年度の取締役会で議論するアジェンダを検討してきました。

「金融+」を実現していくうえでの資本マネジメント

髙野

資本マネジメントの考え方においては、ROEを指標として議論することが想定されますが、前提として、ROEの目標の前に、そもそもどれだけの資本が必要かという議論がなされるべきだと考えています。資本に余剰があるのであれば株主還元を増やすことが望ましく、反対に、然るべき投資が必要な状況においては、資本がどれだけ必要かといったことをしっかり説明する必要があると思っています。十分な資本と人財で利益を上げ、それらに見合った分配をする構造があれば、株主や従業員の皆さまへのリターンも向上していきます。「金融+」をパーパスに掲げるりそなグループにおいて、5年後、10年後にどれだけの資本と人財が必要か、現在において定義するのは難しいと思われますが、何か意識されていることはありますか。

岩田

りそなには、りそなショック後、公的資金の早期返済を第一優先に取り組んできたという特有の歴史があります。自己資本が積み上がってきたのはごく最近であり、その間に十分手当てできなかったことの一つが株主還元であり、もう一つが従業員をはじめとした無形資産への投資だと思います。人財投資もIT投資も長らく抑えられてきたので、こちらも手当していかなければならないと思います。問題は、株主還元と無形資産への投資をどのような優先順位で行っていくかであり、これから取締役会で本格的に議論していかなければなりません。さらに、株主還元では、配当と自社株買いの2つのやり方がありますが、これをどのようなバランスで行っていくのか、取締役会でさらに議論を深めていきたいと思います。自社株買いについては、公的資金を返済する段階で発行株式数が非常に増えていますから、適正数の議論が必要だと思います。一方、配当については、個人株主を増やしていくという観点から、競合他社との比較も踏まえて、考えることが重要だと思います。

取締役会では配当や自社株買いといった株主還元だけ個別に議論するのではなく、先ほど、山内さん、岩田さんからもあったように、全体を見渡したうえで、「金融+」の実現に向けてどのような事業ポートフォリオの構築を目指し、そのための経営資源の配分・資本マネジメントの議論が必要だと思っています。その意味においても、次期中期経営計画の策定において、全体像を見据えて、しっかりと議論を進めていきたいと考えています。

山内

ROEをはじめ、こうしたKPIの設定は、その達成が目的化する懸念があります。こうした動きを牽制していくことも、社外取締役を中心とした取締役会の役割だと考えています。

岩田

りそなについて言えば、取締役会で管理しているKPIは、適正に設定されています。一方で、執行側では課題ごとに多数のKPIが存在すると感じており、これを整理していかなければ社員はKPIを追うことだけに終わり、本来やるべき大きな仕事ができません。

野原

KPIの達成が目的化すると、現場ではKPIで定められた部分のみに目がいってしまいがちです。今後は従業員が自律的に新しいことを発想していく必要があるなかで、従業員のモチベーションを上げるためには、細かいKPIを設定するよりも自由に個性を発揮できるような環境を整備することが必要だと思います。

髙野

KPIを達成することが、どういった意味を持つのか、何をもたらすのかを理解することが大事ということですね。

役員報酬による健全なインセンティブの発揮

髙野

役員報酬制度について、株価連動型の制度を導入することは株主のニーズにも応えることになるのでぜひやるべきだという意見もありますが、一般論として、役員報酬が高額となることで、自身の現在のポジションを守ろうとする保守的なインセンティブが働くおそれがあります。役員報酬を通じたインセンティブの発揮について、どのような議論を行っていますか。

野原

役員報酬を通じたインセンティブの発揮は、報酬委員会の大きなテーマの一つです。私自身も他社でも報酬委員長を務めてきたなかで認識しているのは、日本企業には年功序列・終身雇用が根強く残っているので、役員報酬についても役位に応じて上がっていくということです。それは業務内容や個人に与えられた責任と必ずしも一致しておらず、評価制度も曖昧なままになっている企業が多い印象です。責任の重さや業務領域と、役員報酬をどのように結びつけていくかは重要な論点だと思います。個人的には、世の中の動きも踏まえ、株式報酬の割合を増加させるべきだと考えています。報酬額全体を底上げするために株式報酬を活用し、役員のモチベーションを上げることと、株主利益を一致させていくことが重要だと考えています。

取締役会運営と社外取締役の選任

髙野

取締役会運営については、どのようなことをお考えですか。

取締役会の実効性を高めるには、社内の取締役も議論に積極的に参加することが大切です。月々の取締役会の運営を見ると、社外取締役の質問や意見に対して執行役が応える構造になっています。取締役会は社内外問わず、取締役が議論する場であるので、社内取締役の積極的な参加が実効性を上げることにつながります。社外取締役が金融事業を十分理解していないがために出てくる質問や意見もあります。理解不足に起因する議論の拡散を社内取締役に軌道修正いただければ、議論がさらに深まっていくと思います。

山内

取締役会での議論は、金融以外のバックグラウンドを持つ社外取締役が、執行側と意見をぶつけ合うことで、議論を正しい方向に持っていくことが目的です。多少時間はかかりますが、このように深掘りしていくことによって、取締役会の実効性が向上するものと考えています。

髙野

社外取締役の選任にあたって、選任の背景が株主にも伝わるようになると良いと思います。ぜひ積極的に情報発信をお願いします。例えば、株主総会の招集通知において、取締役候補者の選任基準をもう少し具体的に盛り込むことで、候補者の信任・不信任を考える助けになると思います。

岩田

形式的な基準ではなく、「その候補者が社外取締役になることで、どのようにりそなの役に立つのか」について、より踏み込んだ説明ができるようにならないといけないと気づかされました。今後、開示のあり方についても検討していきたいと思います。

他社事例ですが、各取締役が「取締役として、自分がこれまでどういったことに取り組んできたか」や、「株主に対して自分はこれからどういった責任を果たすか」を記載している企業もあります。

岩田

取締役個人の自己評価ですね。りそなはまだ十分取り組めておらず、将来、充実を図っていきたいと思っている課題の一つです。先ほどご意見をいただいた、選任理由についての情報発信については、まず、取締役の個人評価を行い、その結果も活用して選任理由を文章化することになるでしょう。

髙野

池さんがご指摘の通り、具体的に記載している企業も出てきています。我々投資家サイドも、お金を預けてもらっているアセットオーナーに対して、「こういう人だから我々は賛成します」という説明責任をしっかり果たすことができるため、とても有効だと思います。

不正抑止におけるパーパスの重要性

髙野

戦略立案において、パーパスは重要ですが、不正抑止の観点からもパーパスは機能すると考えています。監査委員会委員長である山内さんにお聞きしたいのは、りそなグループや金融業界に限らず、自分自身の私利私欲や、所属している自分の部署の目先の利益を追い求めてしまった結果、「これぐらい許されるのではないか」という気持ちで不正を働いてしまう事象についてです。その場合、本人に罪の意識がないため、根絶させるハードルが高いと考えられます。社外取締役にはブレーキとしての役割も求められていますが、なにか意識されていることがあれば、教えてもらえますか。

山内

監査委員会として、内部監査部とも連携を取りながら運営を行っています。私は他社の社外取締役も務めていますが、りそなでは社内でいま何が起きていて、どこに課題があるかというチェック態勢がしっかりしており、非常に強い牽制が機能していると思います。先ほど髙野さんのお話にあった、個人の私利私欲から生じる不正については、内部統制機能によってコントロールができると思います。問題は、そういった不正が組織単位で行われ、結果的に社会からの信頼を失うという、一番起こしてはいけないことを懸念しています。そのため、職場単位や事業単位でどういうことが起きているのか、しっかりと注視しないといけません。監査委員会では毎月、いろいろな部署の方に来てもらって報告を受けていますし、内部監査部にも様々な監査のなかで課題や懸念点を確認してもらっています。このような仕組みを維持することはもちろん大切なのですが、根本には理念として、りそなの従業員としての誇りや、りそならしさを考えること、一人ひとりが自分のパーパスをしっかりと持つことが大事だと私は日頃から考えています。そういう意味でもパーパスを浸透させるために会社がもっと努力をする必要がありますし、それによりパーパスが浸透していくことで不正の抑止につながると考えています。

「金融+」を実現していくうえで取り組むべき課題とは

髙野

りそなグループの企業文化については、どのようにお考えですか。

岩田

りそなの企業文化は、総じてすばらしいと感じています。私が一番感銘を受けているのは、りそなの歴史のなかで「お客さまの喜びが、りそなの喜び」という基本姿勢がしっかりと社員にたたき込まれていることです。新しい事業をはじめたり、就業形態が多様化したり、キャリア採用の従業員が増えたりしても、りそなの強みである企業風土をこれからも継承していくことが非常に大切です。もう一つ特筆すべき点は、新しいことにチャレンジができる会社だということです。りそなショックを乗り越え、本当に様々な改革に取り組んできたことが、改革への自信につながっているのだと思います。

野原

「金融+」を広げていくには、りそなにより一層イノベーション創出の企業文化を醸成することが非常に重要です。私には、様々なライフステージの企業の成長戦略を研究し、それらを大手IT企業や政府に提言した経験があります。社外取締役として、この経験を活かし、りそなにもっとイノベーションを創出できる気運を醸成したいと考えています。そのような観点で見ると、りそなには毎年課題を整理して次なる施策につなげている、すばらしい人財戦略があります。例えば、今年度は「高度なマネジメントスキルを備えたリーダーの育成」の課題認識のもと、内外の環境変化に即し、個人の職務価値や就業価値に応じた柔軟な人事制度の運用にシフトしていくことを掲げており、イノベーション創出の文化が醸成されていくことが期待されます。社外取締役として、その進捗状況をしっかりとモニタリングし、策定した戦略をグループ全体に浸透させていきたいと考えています。

髙野

企業文化については、これまでの話とも関連しますが、行ったことがきちんと認められて、十分に報われていく、そしてさらなるやる気につながっていくという循環を生み出すことが大事だと思います。りそなグループでは、資本活用の新たなフェーズに入ったと思います。パーパスの実現に向けて、またその過程において、株主のみならず、従業員の幸せも追求していくことが大切だと考えます。今後のりそなに期待しています。本日はありがとうございました。

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