100年を超えるリテール特化の歴史と、 変革のDNA
まず、最初にりそなグループの原点・強みについて、簡単に触れておきたいと思います。
りそなグループは、100年を超える長いリテール特化の歴史に裏打ちされた、本邦最大の信託併営リテール商業銀行グループであり、個人1600万人、法人50万社の厚いお客さま基盤に支えられています。現中計においては、①「地域に根差したリレーション力」「フルラインの信託・不動産機能」「年金運用で培ってきた運用力」など、これまで培ってきた強みのさらなる「深掘」と、②リアルとデジタルの融合やデータの利活用、外部連携をベースとする金融デジタルプラットフォームの展開などの「新たな挑戦」という2つの柱を掲げています。
また、2003年の公的資金注入時、JR東日本から転じた細谷英二元会長(故人)のリーダーシップのもと、それまでの銀行の常識を超える様々な改革を断行しました。そして、「変革のDNA」を脈々と受け継ぎながら、現在も「銀行」というカテゴリーを超えた「金融サービス業」への転換に向けて歩みを進めています。
りそなのサステナビリティ経営と目指す姿
りそなグループのサステナビリティ経営は、お客さまのこまりごと、社会課題を起点に、すべてのビジネスを考え抜くことを出発点としています。これまでの銀行の常識や枠組みに過度にとらわれることなく、お客さまのこまりごとを正面から見据え、りそなグループの根底にある強み(「ソリューション力」×「リレーション力」×「デジタル&データ」)を活かしながら、新たな価値提供を目指しています。
そして、「持続可能な社会への貢献」と「りそなグループの持続的な成長」が共鳴する、その先に、りそなグループが掲げる「リテールNo. 1」はあると考えています。
今後も、「リテール」と「地域」という2つの軸を決してぶらすことなく、全役職員が「お客さまのこまりごと」「社会課題」の解決に向けて全力を尽くす金融グループでありたいと考えています。
「リテールNo. 1」の実現に向けた2 つのドライバー
「リテールNo. 1」の実現に向けた取り組みのポイントとして、大きく2つお示ししています。
1点目は「リテールのお客さまのSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に最も貢献する金融サービス企業」を目指すこと、2点目は「中長期的な収益・コスト構造改革」実現に向けた取り組みです。

リテールのお客さまのSXに最も貢献する金融サービス企業
りそなグループでは、SXの定義を「持続可能な社会の実現に向けて、常に変化を先取りし、企業のビジネスモデルや個人のライフスタイルを変革させていく取り組み」としています。SDGs・ESGの潮流が大きなうねりとなって押し寄せるなか、お客さまそれぞれの現在地から、深い対話のなかで機会やリスクをともに考え、具体的な一歩目を踏み出していくことが何より重要です。
こうした取り組みは、お客さまの新たなこまりごとの解決であり、千載一遇の「成長機会」だと捉えています。今や、あらゆる企業が「サステナビリティ」に着目していますが、「本気度」と「スピード」が、今後の勝敗を分ける鍵です。だからこそ、どこよりも早くチャレンジし、実例に学びながら、コンサルティング力、ファイナンス能力を高めることで、お客さまのさらなる成長をサポートしていきたいと考えています。
こうした取り組みを加速させるために、2021年6月、グループ共通の「サステナビリティ長期目標」として、①リテール・トランジション・ファイナンス、②カーボンニュートラル、③ダイバーシティ&インクルージョンの3つのテーマについて、2030年度に向けた具体的な数値目標を策定しました。

- ※1お客さまのSXを支えるファイナンス
- ※2当グループのエネルギー使用に伴うCO2排出量
- ※3りそなホールディングス
- ※4グループ6社(りそなホールディングス、りそな銀行、埼玉りそな銀行、関西みらいフィナンシャルグループ、関西みらい銀行、みなと銀行)の合算
- ※5役員は6月末時点、ライン管理職、経営職階は期初時点
収益・コスト構造改革の実現
資金循環構造が変化し、低金利環境が継続するなか、銀行の「稼ぐ力」とそれを支える仕組みやプロセス、コスト構造とのミスマッチの解消が重要なテーマの一つであると認識しています。こうしたなか、さらなる成長を実現するためには、預貸金ビジネスを重視しつつも、世の中の変化等を見据えた次世代型モデルへの転換を急ぐ必要があります。
具体的アプローチとして掲げているのが次の3点です。①稼ぐ力の「深掘」、②稼ぐ力の多様化に向けた「挑戦」、③「基盤の再構築」を通じた業務プロセス・コスト構造の抜本的な見直しです。
そして、これらの取り組みは、お客さま起点であること、これまでの発想や従来の枠組みに過度にとらわれないことが前提であり、今後の競争力強化につながるものでなければなりません。
10年という時間軸で見れば、コンサルティングの多様化や金融デジタルプラットフォームの拡充等から得られるフィー収益が、グループの総コストをカバーする収益構造への転換を目指していきたいと考えています。2008年3月期以降、一貫して減益となっていたコア収益(国内預貸金利益+フィー収益+経費)は、2021年3月期に前期比増加に転じ、2022年3月期は+136億円、+11.7%という力強い伸びをお示しすることができました。グループをあげて取り組んできた中長期的な収益構造改革は、着実に進展していることを、ご確認いただけるものと思います。
“種まき”⇒“新たな成長”⇒“収益化”を間断なく実践
収益構造改革の考え方やその進捗のイメージをお示ししています。

深掘
まず、「深掘」とは、リテール特化の歴史のなかで培ってきたりそなグループの真の強みにさらに磨きをかけること、そして、お客さまをより深く理解し、刻々と変化するお客さまのこまりごとを最適なソリューションをもって解決し続けるりそなのビジネスの本丸です。
例えば、成熟社会において、深いコンサルティングを通じた事業や資産の次世代への円滑な移転を支える承継ビジネスや、お客さまの未来をより豊かなものとするための資産形成サポートビジネス等は、まさにりそなグループの強みを活かすことのできる領域であり、同時に、国内に横たわる社会課題の解決にもつながる取り組みです。
新たな収益の柱
りそなグループは、お客さまの金融行動変化を見据えつつ、常に新たなビジネスの種をまき、次世代の収益の柱に育てていくという基本サイクルを間断なく回し続けてきました。これまで種をまき、グループをあげて育ててきたいくつかの取り組みは、足元でしっかりと芽を出し、成長軌道を描き始めています。
そして、こうした新たな芽は、これまでとは異なる発想や仕組み・仕掛けから生み出されたもので、今後の収益源の多様化にも資するものです。
2年前の統合報告書のメッセージのなかで、「新たに種をまいてきたビジネスのうち、今後さらに実を結んでいく分野」として、キャッシュレスを含めた決済ビジネスや関西みらいフィナンシャルグループ(KMFG)への期待について言及しています。
キャッシュレス決済については、2020年3月末に201万枚であったデビットカードの発行枚数は、コロナを経て、2022年3月末には296万枚と約1.5倍に増加、収益についても、2020年3月期の23億円から2022年3月期には43億円となり、約1.8倍の水準に拡大しています。
KMFGについては、当時、「業績面での進捗は道半ばですが、反転攻勢に向けた地均しは整った」ことを説明しています。その後、トップライン側、コスト側両面からのシナジー効果の発現を通じて、KMFGの最終利益は2020年3月期の39億円から、2022年3月期には170億円まで拡大し、新たな成長ドライバーとなっています。加えて、2021年4月の100%子会社化を加味したりそなホールディングス連結業績への貢献利益で見ると、20億円から170億円と、約8.5倍の水準に拡大しています。
また、長らく取り組んできた「リアル」と「デジタル」の融合は大きく進展し、これからの顧客体験を変えていくとともに、りそなグループの新たな差別化の柱になっていくものと考えています。「りそなグループアプリ」は、中計最終年度における目標としていた500万DLを1年前倒しで達成し、次なる通過点として1,000万DLを視野に入れています。お客さまとの双方向コミュニケーションを24時間可能とするこの流れは、日常の金融サービスそのものを変えていく可能性を秘めています。
一方、奥行きのある複雑な金融ニーズを満たすためには、対面でのコンサルティング営業の深掘が不可欠です。お客さまをより深く理解し、付加価値の高いソリューション力を磨き続けること、そしてデジタル武装・データ武装を通じて、対面での接点をさらに魅力的なものへと進化させていくことが、今後の差別化につながるものと考えています。

次なる成長の種
次世代における収益の柱として期待し、現在種まきの途上にあるものとして、①SX領域でのビジネス拡充、②金融デジタルプラットフォーム構想の本格展開、③脱銀行に向けた新会社の設立など、事業環境変化を先取りする形で新たな取り組みを展開しています。
一例として、金融デジタルプラットフォームについては、デジタル時代に相応しい新たな価値提供スキームとして高い可能性を感じています。地域金融機関はもとより、異業種を含めた様々な企業の方々にご利用いただくことのできる共創型のプラットフォームとして、大きく育てていきたいと考えています。プラットフォーム上に複数の連携メニューを取り揃え、API連携等を通じて、簡潔でスピーディーなビジネス展開を可能としています。りそなグループと地域金融機関や一般事業法人、地方自治体、さらにはその先にいらっしゃるお客さまを含めて、複数の「Win」の実現を目指していきます。
ファンドラップは、2017年2月の取扱開始から5年が経過し、2022年3月末の残高は7,500億円を突破し、一つの通過点として1兆円の大台が視野に入っています。2022年3月期の収益は前年から約47%増加して82億円となり、大きな収益源に成長しています。りそなのファンドラップは、半世紀を超える長きにわたって年金運用で培ってきた運用力を活かし、長期安定運用を好まれる銀行のお客さま向けに設計された商品です。人生100年時代を見据えた安定運用ニーズの高まりを背景に、お客さまの商品認知度が向上していることも好調の要因の一つであると認識しています。また、金融デジタルプラットフォームを通じて、2021年4月から、横浜銀行さまでファンドラップの取扱を開始していただいております。スタート1年目となる2022年3月末の残高は、408億円まで積み上げていただいており、本年6月からは京葉銀行さまでも取り扱いを開始し、七十七銀行さまとも導入に向けた共同研究をスタートしているところです。
また、バンキングアプリについても、2021年3月より、常陽銀行さま、足利銀行さまとデジタル分野における戦略的提携を開始しており、両行のお客さまのダウンロード数は、2022年3月期において既に69万に達しています。こうした実績が金融デジタルプラットフォームの可能性の一端を示すものだと考えています。今後、百十四銀行さま、京葉銀行さまにも順次展開をしていく予定ですが、志を同じくするより多くの地域金融機関の皆さまと、これからも戦略的な関係を築いていきたいと考えています。
また、地域金融機関や異業種の皆さま方とのさらなる連携を加速させるべく、2022年4月、りそなホールディングスとNTTデータさま、日本IBMさまの3社でFinBASE株式会社を設立しました。
りそなグループが持つリソースの壁を越えて、地域金融機関や異業種の方々の顧客基盤や知見・ノウハウとの連携をさらに深めながら、奥行きと広がりのある新たなエコシステムの構築を目指していきます。

基盤の再構築
リテール金融サービスグループとして、リテールビジネスに内在する高コスト性は、我々が克服しなければならない重要な経営課題の一つです。テクノロジーの進化は、こうした経営課題を解決するための重要なピースであり、デジタルとリアルの融合は、お客さまへの新たな価値提供と同時に、コスト構造改革の観点からも切り札となるものです。まずは、DXを通じた業務プロセスの解体・再構築を加速させることが、これまで進まなかった経営資源の再配分を可能とし、システムコスト・チャネルコストを含めた経費構造そのものの変革につながっていきます。これまでの銀行の常識にとらわれない、柔軟な発想をもって、これからも粘り強く業務プロセス変革に挑み続けます。
図は、経費構造のイメージですが、これまでの業務プロセスを支えてきたベースコストや投資は、すでに大幅に抑制傾向にあり、デジタル側への戦略投資に大きく舵を切りながら、次世代を支える「基盤の再構築」を目指しているところです。当面、デジタル側への戦略投資と既存の更新投資が重なることから、全体として緩やかなコスト減少となる見込みですが、舞台裏については着実に次世代化が進んでおり、今後、目に見える形での利便性向上やコスト低減効果をお示しできるよう、スピードアップを図っていきます。

持続的な成長を支える人財
現中計では、人財・組織・業務プロセス・チャネル・システム等を一気通貫で見直すことで、次世代のリテール金融サービスを支える経営基盤への移行を目指しています。それぞれの取り組みの詳細は後段のページでご確認をいただきますが、ここでは、「人財」についてお話します。
お客さまに新たな価値や喜びを提供するのも、変革やイノベーションを生み出すのも、すべて人財が起点です。こうしたなか、2021年4月、多様性と専門性をキーワードに、13年ぶりに人事制度の改定に踏み切りました。新人事制度は、①19の専門コースからなる複線型人事制度を基本として、②競争力のあるプロフェッショナル人財の採用・育成強化、③全員コンサルティング体制の構築に向けた人財育成体系の見直し、④「選択定年制」の導入を柱としています。
りそなグループが定義するプロフェッショナル人財は、「お客さまのこまりごとを解決することで、より大きな喜びをもたらすことのできる専門性と人間力を兼ね備えた人財」です。変化の時代に必要とされる知見やスキルを再定義するとともに、あらゆる角度から人財投資を見直し、次世代を見据えて本気で人財育成に取り組んでいきます。併せて、異業種の方々や外部の優れた知見やスキル・ノウハウを持つ人財とのビジネス上での接点をさらに拡充させることで、りそなグループ全体の組織能力向上を急ぎたいと考えています。いずれにしても、個々人のマーケットバリューの総和が、企業価値に近づいていくことを念頭に、多様性と専門性を持つ強い「個」を育てながら、グループの競争力強化を目指していきます。
資本マネジメントの方向性
中期経営計画の目標として株主資本ROE8%を掲げるなか、今年度のガイダンスに基づく見通しは7%台半ばという状況にあります。未達の要因は、2020年度以降のコロナ禍の継続や、有価証券ポートフォリオの健全化の影響によるものですが、収益力と資本の効率性に関しては、さらなる強化に向けてギアを上げたいと考えています。振り返りますと、当社では、2003年以降、公的資金返済に向けた原資の安定確保と、資本の質的改善を同時に進めなければならない期間が長らく続きました。一方、2015年の公的資金完済以降は、健全性と収益性、株主還元等とのバランスに留意しつつ、資本の量的拡充を継続してきたことで、いよいよ資本活用の本格化に踏み出せるフェーズに向かいつつあります。
具体的には、次期中期経営計画の策定プロセスを通じて、「オーガニック」「イン・オーガニック」両面での議論を深めていきます。
また、「資本コストの低減」についても、重要な論点だと認識しています。サステナビリティ長期目標の達成に向けて、SXに対する取り組みを着実に前進させるとともに、クローズアップされる非財務情報の開示の充実等も積極的に進めていきます。また、当社は2003年から指名委員会等設置会社の形態にあり、取締役会の7割が独立社外取締役で構成されるなど、高度なガバナンス体制が強みの一つです。今後も環境問題をはじめとする多様なリスクファクターを適切にマネージし、当社の持続可能性に対する理解を深めていただくことを通じて、中長期的な資本コストの低減を目指したいと考えています。

- ※6親会社株主に帰属する当期純利益÷株主資本(期首・期末平均)
- ※7バーゼル3最終化ベース、その他有価証券評価差額金除き
- ※8FTSE Blossom Japan Index、FTSE Blossom Japan Sector Relative Index、MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数、MSCI日本株女性活躍指数、S&P/JPXカーボン・エフィシェント指数
おわりに
本年度、中期経営計画の最終年度を迎えます。事業環境変化を言い訳にすることなく、これまで取り組んできた収益・コスト構造改革の着実な進展という良い流れを加速させながら、しっかりとした結果を出し続けたいと考えています。
りそなグループは、どのような状況にあっても、お客さまとともにあります。お客さまを成功に導くことができなければ、りそなの成功はありません。そして、お客さまが望む価値を提供することができなければ、我々だけが成長することもありません。
だからこそ、不確実性が高まる時代に、我々自身が、いち早く変化に適応することを大事にしていきたいと思います。こうした取り組みは、結果として、お客さまを守り、りそなグループの持続的成長につながるものだと確信しています。
今後も、3万人の全役職員とともに、お客さまに寄り添い、お客さまのこまりごと・社会課題の解決に向けて、全力を尽くす金融グループでありたいと考えています。
ステークホルダーの皆さま方の一層のご支援、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
