りそなグループ統合報告書2022

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社外取締役メッセージ

化学反応を起こすような、
本質的な議論を交わす
取締役会に

取締役会議長 池 史彦

社外取締役に就任して1年が経ちましたが、いかがですか。

メーカーの会長を退任して4年ほど企業の経営から遠ざかっていましたが、2020年から他社の社外取締役を拝命し、感覚を取り戻しつつあったところにお声がけいただきました。

生活者あるいは事業者として銀行と付き合いのない方はいないと思いますし、そういった意味で銀行は非常に身近な存在であります。私自身、事業会社のCFOとして銀行の方々と事業を通じて接していましたので、銀行業務にはある程度の理解はあると思っていましたが、いざ取締役として関与するようになると、知らないことが実にたくさんあることがわかりました。

銀行は社会インフラのなかでも非常に重要な機能を果たしているため、銀行法をはじめとした規制が厳密に適用されており、それらを少しずつ勉強し始めたところです。例えば、金融業界の方が日常的に使われている特有の言い回しも、外部にいる人間にとっては、専門用語の知識やリテラシーがないため、言葉を理解することがまず難しいというのが第一印象です。

りそなのガバナンスの特徴をどのようにご覧になっていますか。

最大の特徴は、他社に先駆けて「指名委員会等設置会社」に移行した点です。コーポレートガバナンスにおいて、日本の上場企業のなかでも先頭集団にあると思っています。

特に取締役会の構成では、取締役10名のうち、7名が独立社外取締役で、3分の2を超えています。2021年6月公表の改訂コーポレートガバナンス・コードでは、プライム市場の上場会社は独立社外取締役を少なくとも3分の1以上とすることが基本要件となっていますが、私が知る限りでは、社外取締役が過半数を超えている企業は全体の8%弱ですから、非常に大きな特徴だと思います。

そのような特徴は取締役会の運営のどのような点に表れていますか。

社外取締役は企業経営経験者、官庁やアカデミアの出身者など、多様性に富んだ方々で構成されていますから、取締役会では銀行目線に偏らない、幅広い視点での議論が交わされています。

膨大な資料を提供され、短い時間のなかで勉強しなければならないという社外取締役共通の悩みはありますが、執行側から事前の説明で事細かく説明されていますし、その場で様々な質問をさせていただいて理解するように心がけています。執行側もまずは社外取締役の理解を得るところから始める必要はありますが、その過程で認識を新たにするという、ある種の化学反応は起きていると感じています。

自身の経験、スキルをどのように活かしていますか。

取締役会に多様性があるとお話しましたが、そのなかで企業経営の経験は必要な要素だと思っています。企業経営経験者としては、アカデミックな知識は深く持ち合わせていませんが、過去の事業運営で培った経験則、別の言葉で言うと“肌感覚”があります。

事業は生き物ですから、刻々と変わる事業環境、想定していない様々なリスクにどのように対応していくかについては、必ずしも教科書的なことがすべてにおいて当てはまるわけではありません。もちろん、経験則だけですべてに対応できるものでもありませんが、これまで培ったある種の感性、その場その場での肌感覚は決して無駄にはならないと考えています。自分としてはその感性を頼りに違和感を持ったことについては、それを申し上げるようにしています。抱いた違和感に対する説明をいただくことによって、私が知らなかったことを教えていただいて腹落ちすることは多いのですが、説明を伺ってもなお、おかしいという思いが募るようであれば、何が違うのだろうということで、少しでも本質的な議論に掘り下げられるように心がけています。

事業会社で経験した肌感覚と、金融業界では何か違いがありますか。

お金が流れることで、経済活動や社会活動といった営みが成り立っています。つまり、金融というファンダメンタルがあって、その上に様々な事業がそれぞれ違ったかたちで動いています。そういった意味で、やはり事業と金融との間には基本的な違いがあると感じています。

例えば、金融の営みは事業を支える側にあるため、どうしてもそのような観点から事業を捉えることになります。一方で、個々の事業の営みは千差万別です。りそなには、お取引先が何十万とあり、様々な業種に携わっているため、ある意味で銀行としては非常に幅広い知見を持っていますが、同時にそれは金融を通じた捉え方であるということは意識しておいた方がよいとも感じています。

私の持っている肌感覚は、あくまで製造業で培ったものなので、様々な業種に携わり、それぞれ異なった肌感覚を持つりそなの執行側の皆さんと切磋琢磨していければと考えています。

りそなのサステナビリティ経営では、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とDXという、「2つの“X”を通じた変革」を掲げていますが、これについてはいかがですか。

金融業界にとどまらず、すべての業種において、いわゆる第4次産業革命のなか、産業構造だけでなく社会構造も大きく変化しようとしています。サステナビリティやESGなど社会課題に対する世界的な目線も高まっており、生活者の価値観も行動様式もどんどん変化しています。すべてが変わりつつあるなかで、りそなが真っ先にSX・DXを掲げて取り組んでいる点はまず評価すべきだと思います。

規模の大小を問わずどの企業もSXやDXを求められているものの、どう取り組むべきかについて、なかなか目に見える形で捉えにくい状況にあるといえるのではないでしょうか。

こうした状況のなかで、りそなは中堅・中小企業を含めたお取引先に対して、まずはSXやDXについて理解してもらうというところから取り組みをスタートしています。現状、SX・DXへの取り組みは緒に就いたばかりですが、特にサステナビリティについては、何を持って正解とするかという答えを誰もまだ持ち合わせていない気がします。りそな自身としても、試行錯誤を繰り返しているように思います。「クロス・ファンクショナル・チーム」が「脱・銀行」を目指して様々な活動を展開し、「地域デザインラボさいたま(ラボたま)」がまちづくりを支援するなど、りそなグループとしての新しいビジネスモデルづくりの成果が徐々に出てきています。一方で、現状の成果はまだ緒に就いたばかりであり、最初の一歩は踏み出したものの、SX・DXにおいてどこまで足跡を残していけるかは、これからの取り組みにおいて重要な点だと思います。

取締役会においても、共通認識づくりが大事だと思っています。りそなの社外取締役は様々な企業の取締役を経験され、現在も他社を兼務されている方が多いので、異業種の様々な会社に携わって得られた経験則や知見を共有しながら、SX・DXの議論を深めていくことができます。りそなも今まさに取り組みに魂を入れていく段階にあると考えています。

取り組みに魂を入れていくためにはどのようなことが必要でしょうか。

単に時流に流されるのではなく、当社の中でその意味合いを確りと根付かせることが必要だと思います。コーポレートガバナンスも、SDGsやESGもすべて、言ってみれば欧州発のものです。スチュワードシップ・コードも、コーポレートガバナンス・コードも欧州モデルを雛形にして日本流にアレンジして取り組んできたところがあります。

私がメーカーの会長を務めていた6~7年前のスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの議論は形式論が多く、魂がこもっていないところがありました。ところが昨今の動きを見ますと、どの会社もコーポレートガバナンスを“自分事”として実効性を高くしていこうという動きが感じられます。

りそなも、実効性を高めていこうとする姿勢が十分浸透していると思います。取締役会においては、出席している執行役が積極的に議論に参加するなど、良い緊張感を持って運営されています。

りそなのガバナンスをさらに高めていくには、どのような取り組みが必要だとお考えですか。

りそなのガバナンスは、りそなホールディングス傘下の銀行にそれぞれ社外取締役がいる一方で、純粋な意味での持株会社とは様相を異にしており、執行役がグループ銀行の社長や執行役員を兼務する体制を採っています。2003年のいわゆる“りそなショック”以降、大きな改革を経て、りそなホールディングスのあり方を模索するなかで最適な解として現在の姿に至ったのだと理解しています。

持株会社と傘下の銀行との一体運営は、お客さまとの接点である現場から乖離した経営を行わないためといえます。お客さまに近い目線でいることは、事業運営のうえで実効的に機能しているといえます。

その一方で、世の中のビジネスモデルは大きく変化し、金融の垣根がますます低くなるなかで、法律の面でも銀行が金融以外の業務もできるようになる一方で、デジタルプラットフォーマーなど金融業界以外のプレーヤーたちが次々に金融分野に参入しています。その最たるものがペイメントではないかと思います。コロナ禍において人々の行動は対面から非対面へと軸足を移したこともあり、キャッシュレス決済などが一気に進展しました。銀行を介さずに決済ができるところまで世の中が進んできているため、将来的に“銀行って必要なの? ”ということにもなりかねません。

これに対して、りそなは“脱・銀行”を掲げ、金融を超えた新しい姿に挑戦していこうとしていますが、りそなホールディングスとして、従来の銀行業務だけではない金融以外に事業領域を拡大させていこうと議論を行う場合、銀行役員を兼務していることは既存の領域にとらわれがちとなり、大胆な発想をしていくうえでの足枷となり得ることも念頭に置いておく必要があるかもしれません。一方で、お客さまとの接点である銀行とホールディングスを切り離した形でグループのガバナンスを行うと、現場の実態把握が困難になります。どのようにマインドセットして、新たな事業・サービスをつくっていくのか。個人的には、ここが重要なポイントではないかと思っています。

業界の垣根を越えた大きなうねりのなか、デジタルプラットフォームの中で様々な業種ともつながるという概念図をよく見かけます。このように業種を問わずピースとピースをつなげて大きな一つのプラットフォームにする、あるいはそれを社会に実装していくとなると、りそなも他社との連携をさらに進めていくことも想定されます。

そのようななか、いわゆるデジタルプラットフォーマーは自前のデータ基盤を駆使して様々な異業種を結びつけ、事業領域を拡大しつつあります。一方で、欧州を中心に個人情報保護の観点から、これらの巨大化したプラットフォーマーのデータ基盤の活用に対して規制する動きもあり、それを注視する必要があります。

金融業界に一日の長があるのは信頼性、それを絶対裏切らないという世界を築き上げてきた点だと思います。金融の生業としてそこは絶対に譲れない部分です。その本分を守り、パートナーシップも活用しながら、社会に実装していくプロセスにどのようにかかわっていくのか、“脱・銀行”を目指すのはとても意欲的なチャレンジになります。そして取締役会には、そのパートナーシップが本当に合理的かをきちんとモニタリングしていくことが求められていきます。

2022年6月より取締役会議長に就任しましたが、どのように取締役会を運営するお考えですか。

今、取締役会に求められる実効性が非常に高くなっていると認識しています。昨今の様々な不祥事に関する報道などをみても、取締役会の責任の重さに改めて気づかされ、取締役会議長の責任の重さについても日々痛感しています。

りそなでは社外取締役が議長の座に就くのは初めてのこととなります。現在、東証でプライムに上場する企業のうち、社外取締役が取締役会議長を務めている割合は3%にとどまっていると理解しています。今後コーポレートガバナンスの実効性を上げる手段として、取締役会議長に社外取締役が就く流れとなるのかは、個人的にはまだわかりませんが、その意味では新たな試みとなります。

私は前職で取締役会議長を務めましたが、それは長らく勤め上げ、内容をよく理解した事業会社のことであって、就任してまだ1年しか経験していない金融機関のりそなで、いかに責務を全うしていくか、いろいろと思案しています。したがって、りそなホールディングスとしての取締役会のあるべき姿を、経験豊かな他の取締役の方々には一緒に考えていただきたいと話しているところです。これまでりそなでは、グループガバナンスを束ねるホールディングスが単なる純粋持株会社としての機能ではなく、事業会社としての役割の一部も担うなど、その時々の環境や状況に応じて最適解を模索してきたと理解しています。言い換えれば、持株会社の役割をより広く捉えたうえで、グループガバナンスの枠組みを構築してきたということです。

りそなホールディングスが誕生して約20年、これまで様々な経緯があり現在の姿になっているものと思います。一方、スピード感を持って変容しなければならない現在の状況下にあって、従来からの銀行を中心とした意識が根強くあるとするならば、この意識を変革していく必要があります。

これからの時代を乗り切るためには、これまでホールディングスと銀行との一体運営のなかで築き上げられてきたものについても、一度立ち止まって再考することが必要になるかもしれません。

取締役会議長に社外取締役を据えたのは、このような化学反応を期待されてのことかと考えます。私に与えられた役割とは、あえて化学反応を起こすような、従来よりもさらに本質的な議論を活発にできるよう取締役会を運営していくことではないかと考えています。そのような役目を1年間全うし、後は指名委員会の裁量に委ねたいと思います。

最後に、読者の皆さまへのメッセージをお願いします。

取締役会の実効性を高めるためには、あらゆるステークホルダーの皆さまに向けたエンゲージメントを強化していくことが大事だと考えています。

社外取締役はあらゆるステークホルダーがどのような目線でりそなを見ているかを執行側に伝えることも大きな役責として担っていると考えます。自分たちの知見からだけでなく、ステークホルダーがりそなに対して期待していること、あるいは懸念していることがあるならば、それを取締役会の席上でしっかりと執行側に伝えることで、深度ある議論を行うことができます。

ステークホルダーの皆さまとは一緒になって、りそなに期待されることが何なのか、どこに行くべきなのかを考えていきたいと思っています。ぜひ、様々な機会を通じて皆さまの関心、期待、懸念などをりそなにぶつけていただきたいと思います。

このような様々なエンゲージメントを通じて情報の非対称性を少しずつなくし、りそなをより良い方向に導いていけたらと考えていますので、よろしくお願いいたします。

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