りそなの原点

「りそなスタイル」の確立

りそな再生への取り組みでは、続いて企業風土の改革にも着手した。サービス改革など、サービス業としてお客さま目線を重視する経営の徹底は「お客さまの喜びがりそなの喜び」というグループの基本姿勢につながっていった。
こうしたサービス業への進化を図る「りそな改革」は、心の改革でもあり、再生の歩みを進め、りそなスタイルを確立させていくことになった。

01再生の過程で取り組まれた企業風土改革

新経営陣がガバナンス改革、財務改革と並んで取り組んだのは、企業風土の改革であった。細谷会長は、その就任当初から、「銀行が特別な産業である意識を捨て、普通の会社としての経営努力をする」、「私たちの仕事が、サービス業であるという自覚をすること。コスト面の競争力と新しい魅力あるサービス・商品を生み出す力がなければ、生き残ることができない」と発信し、お客さまが銀行を選別する時代において、りそなグループが再生を果たしていくためには、お客さまに軸足を置き、競争力のある金融サービス業への進化を目指していく必要性を説いた。

金融業界は、戦後経済を支えてきた金融行政の枠組みの中で“安定性重視”の組織風土となっており、りそなグループも、お客さまより身内の論理を優先する内向きの経営が続けられ、業界横並びで、前例踏襲型の体質に陥っていた。

このため、「りそな再生」には、お客さま重視の姿勢の徹底、収益マインドの向上など、全従業員が自主性を発揮し、変革に挑戦する風土をグループ内にしっかりと定着させることが不可欠であった。

このような認識のもと、お客さまの目線に立ち、店舗ごとが自発的にお客さま満足度向上のための具体案を企画し実施する「りそなプラス・ワン運動」の展開や、「頭取」や「行員」といった銀行固有の呼称廃止など、従業員の意識改革に繋がる施策を通じて、お客さま重視の姿勢を徹底し、お客さまに評価される行動の実施から改革はスタートした。

2003年7月には、再生に向けた社内改革のため、若手を中心とした「りそな再生プロジェクト・チーム」(以下、再生PT)を発足させ、グループが直面している経営課題に対し、斬新な発想を持つ若手従業員を積極的に活用していく取り組みが行われた。スピード感を持って再生に向けた様々な改革や新たな施策を実行するため「再生PT」や「りそな競争力向上委員会」といった組織横断的な枠組みを積極的に活用し、従来の縦割りの弊害を打破し、改革のスピード・アップを図った。

「りそなプラス・ワン運動」をはじめとした、現場が考え、実践するお客さま目線に立ったサービス向上策は、銀行都合ではなく、外からの目線、徹底したお客さま目線で常に銀行を見直し続ける姿勢として、徐々に従業員の間に浸透していった。また、組織改正や職位体系の整理によって組織のスリム化・フラット化が進められ、従業員一人ひとりが「自ら気づき、考え、行動する」企業風土への転換が進んでいくこととなった。

2003年11月には、新生りそなとして、グループの全従業員が進むべき方向と共有すべき価値観を示した「りそなグループ経営理念」と「りそなWAY(りそなグループ行動宣言)」が、また2004年4月には、従業員の具体的行動レベルで明文化した「りそなSTANDARD(りそなグループ行動指針)」が定められ、りそなグループ従業員の行動や判断の基準、心構えとして浸透していった。

そして、これらの理念体系においても、「創造性に富んだ金融サービス企業」という目指す姿が、従業員の間で共有され、お客さま目線で変革に挑戦する企業風土が醸成されていくことになった。

02銀行業からサービス業への進化

サービス・オペレーション改革の取り組みの加速

細谷会長はサービス業としての競争力の源泉は現場の創意工夫にあるとして、「知は現場にある」と繰り返し唱えていた。このため、サービスの改革は、営業店の店頭の改革から始められた。店頭はお客さまと接する銀行の顔であり、サービス業として、来店されたお客さまに満足いただける店づくりが重要だとの考えによるものであった。

こうして、2003年度下期から着手したのが、「営業時間の延長(平日17時まで営業)」と「待ち時間ゼロ」運動であり、サービス業として銀行にご来店されるお客さまのニーズに真正面から向き合う取り組みだった。

「営業時間の延長(平日17時まで営業)」は、15時で窓口を閉める銀行業界の慣習を破る新たな取り組みであった。実務面では、手形や税金などの時限制のある業務への対応が必要で、多くの課題があり、現場の従業員も戸惑いがある状況でスタートした取り組みであった。しかしながら、本部と現場の営業店が一体となった工夫を重ねるなかで、お客さまからの利便性の評価や「りそなは変わった」という声をいただけるようになり、従業員のサービスマインドも向上し、定着していった。

また、「待ち時間ゼロ」運動も、店頭での「待ち時間が長い」という多くのお客さまの声に対して、サービス業の原点に立ち返り、取り組んだ運動であった。

こうした取り組みを進めるなかで、サービス業としてお客さまをお待たせしないという意識が全社的に浸透していっただけでなく、支店ごとに待ち時間を短くするためのさまざまな具体的工夫が生まれ、支店運営や事務手続きに関する多くの改善事項が本部に寄せられるようになった。待ち時間を短縮するために、お客さまを「待たせない」「(伝票を)書かせない」「(印鑑を)押させない」という“3ない”と、これらサービス改革を支えるオペレーションの改革として、銀行の業務効率化を図る、「ペーパーレス」、「キャッシュレス」、「バックレス(営業店の後方での事務処理をなくす)」を推進する“3レス”の考え方が生まれ、2004年11月より導入が開始された「次世代型店舗」の展開につながった。

地域運営の導入

さらに、2004年度に入り、金融サービス業への進化を図るための仕組みとして導入したのが、「地域運営」であった。

従来、銀行では経営トップや本部が決めたことを一斉に行うトップダウンのピラミッド型組織としての傾向が強かったが、サービス業への進化という観点で、お客さまと常に接点を持つ現場がアイデアを発信し、本部が実現をサポートするというボトムアップの逆ピラミッド型組織への転換を狙った取り組みであった。

2004年4月 りそな銀行 地域運営体制

地域運営では、各地域の責任者へ大幅な権限委譲を行い、地域の業務運営全般を任せる仕組みであったが、地域の特性を踏まえたサービスの実現や現場決裁によるお客さまニーズへのスピーディな対応などが進み、地域に根ざした金融サービス業を目指す、りそなグループの特色を活かした営業体制の仕組みとして定着していった。

その後地域運営は、地域の編成単位や地域内の組織体制等の運営の見直しも行いつつ、現場を重視し、お客さまに近い経営を行う枠組みとして、りそな銀行、埼玉りそな銀行で現在に至るまで継続されている。

こうした「サービス・オペレーション改革」、「地域運営」といった仕組みの定着により、サービス業の原点である「ホスピタリティ」の精神をグループ全体で共有する価値観として根づかせていった。

2005年3月の集中再生期間終了後においても、サービス業への進化を続けるなかで、「ホスピタリティ」を中心としたサービスカルチャーが企業文化として浸透していき、さらには「お客さまの喜びがりそなの喜び」という考え方につながっていった。この「お客さまの喜びがりそなの喜び」という考え方をグループ役職員一人ひとりが行動として実践していくことにより、今日のりそなグループの基本姿勢として定着していった。

03変革への挑戦 りそなグループのDNAが生まれた原点

「私たちは社会に何をもたらすために存在するのか」

公的資金の注入により、再生の機会を与えられたりそなグループは、社会に助けていただいた企業として、お客さまや社会にどのような価値を提供できるのかという企業としての基本命題と向き合ってきた。

新しいガバナンス体制のもとスタートした「りそな改革」では、全ての役職員が、りそな再生に向けた金融サービス企業への変革に挑戦し、改めて、社会の一員として、地域社会に貢献し、お客さまの信頼にお応えすることに取り組んできた。そして、こうした役職員一人ひとりの想いと行動が、「りそな改革」の原動力となり、今日のりそなグループの礎となっている。

公的資金の注入による再生から20年。

創造性に富んだ金融サービス企業を目指し、変革への挑戦を続ける、今も変わらないりそなのDNAが形成されたのは、この「りそなショック」とそこからの再生の過程が原点となっている。